というわけで、『男色義理物語』の巻一を読み終わりました。
一応、前回のあらすじを簡単に載せるようにしてるんですけど、分量や労力の関係で、見開きページごとに解説してるので、どうしても細切れで途切れ途切れになっちゃうんですよね。
そこでです、実験的試みとして、巻一の現代語訳をまとめて載せてしまおうかなと。
そうすれば読み返しやすいし、まどろっこしくないしw、巻二以降を読む手助けにもなるかなと。
評判が良かったら巻二以降も続けますし、不評だったら、今回が最初で最後ですw
読みやすいように、省略したり意訳したりしていますので、ちゃんと読解したい方は、個別のページをごらんくださいませ。
【スマホでご覧の方へ】
諸事情により、PC版と同じデザインになっています。なるべくスマホでも読みやすいようにはしているのですが、もし、字が小さいと感じた場合は、スマホを横にして拡大すると読みやすいと思います。
別館も更新しています、見てね!ヾ(๑╹◡╹)ノ"
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男色義理物語 : 4巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※赤字の書入れ等は筆者。
『男色義理物語』巻一「花に思いを寄せる恋」
花が一番キレイな時に摘まれてしまうように、美しいものの命というものは、なんともはかないものです。
さて、いつの頃の話だったでしょうか、時の権力者、唐橋侍従《からはしじじゅう》の所に、深見頼母《ふかみたのも》という少年が仕えていました。
頼母は、容姿が美しく、上品で、性格も良く、「もののあわれ」ということも理解していました。
春は東叡山寛永寺《とうえいざんかんえいじ》の桜に心を惹《ひ》かれ、桜が散ることを悲しみ、
「大空を覆うぐらい大きな袖があったら、風を遮《さえぎ》って桜の花が散るのを防げるのに」
と嘆きました。
秋は隅田川で月を見て和歌を詠み、心を慰《なぐさ》めました。
頼母は、歌は紀貫之《きのつらゆき》や壬生忠岑《みぶのただみね》、詩は杜甫《とほ》や黄庭堅《こうていけん》に匹敵する才能を持っていたので、侍従のお気に入りとなり、ほかの家来より愛情を注がれたのでした。
侍従は頼母を儒官《じゅかん》の元に通わせて、周公《しゅうこう》や孔子《こうし》が説いた道を学ばせたので、頼母は孔子の弟子の顔回《がんかい》に負けないレベルにまでなりました。
また、武士道においても、子路《しろ》のような勇ましさを持ち合わせていたので、もう、非の打ち所がなさすぎて。
才色兼備のパーフェクトヒューマンで、しかも色っぽいので、あの光源氏や在原業平《ありわらのなりひら》のような、誰もが知ってる色男たちも、この頼母と並んで立つと、モブキャラ同然です。
そういうわけで、頼母に出会った人たちは皆、頼母に恋心を持ったのですが、侍従からは恋の道は厳しく禁止され、部屋の前に番人を立てて監視されました。
頼母は、恋愛もできず、自由に外に出ることができない悲しい身の上でしたが、だんだん成長し、早くも十六歳の春を迎えました。
そんなある夕方、頼母は、南面の格子戸《こうしど》を開け、脇息《きょうそく》にもたれて、満開の桜を穏やかに眺めていました。
その顔つきは、とても美しく可憐《かれん》です。
ここに、同じ唐橋侍従に仕えて同じ屋敷に住む、三好采女《みよしうねめ》という、十八歳になろうかという、人柄も真面目で、容姿も美しい者が通りかかりました。
頼母が脇息にもたれかかる姿が、この世のものとは思えず、采女は心が乱れて、「私の魂がどっかに行ってしまったようだ」と、足元もおぼつかなるほど見とれてしまい、正気を失った状態になってしまいました。
そして、頼母にふと近づいて、
「夕焼けに照らされて映《ば》える桜の花に、見とれていらっしゃるようですが、さぞかし素晴らしい歌を、心の中でお詠みになってらっしゃるのでしょうな」
と、聞こえるように言いました。
頼母は、少し恥ずかしそうに顔をそむけ、
「そうなのですよ、心で色々思うばかりで、誰にも言葉で伝える機会が無いので、自然と口無しの園《その》に居る気持ちです」
と、その場を取り繕《つくろ》うように言いました。
このことが頼母への恋心の始まりとなり、それから采女は、頼母一筋になり、心もフワフワとして、だんだん我を失っていきました。
ぼけ~っとして、独り言をブツブツと言い、床《とこ》に臥せって、命も危うい感じになりました。
夜は一晩中嘆き明かし、昼は蔀戸《しとみど》も遣戸《やりど》も閉めて立て籠もり、わけもなく嘆くばかりなのでした。
そのうち、今が何月何日かも分からなくなり、
「どうして、こんなになるまで頼母殿に恋をしてしまったのだろう」
と思い悩み、なんとか心を落ち着かせようとしましたが、日が経つにつれて、ますますツラタンで弱っていきました。
周りの人たちは驚いて騒ぎ、急いで薬を用意したりしましたが、もちろん効果はなく、「どうしたものか」と、見守る事しかできませんでした。
そんな時、頼母も、若い人たちを連れて采女の所に見舞いにやってきました。
「気分はいかがですか。
薬をしっかり飲んで、養生なさってくださいね。
このように部屋に籠《こも》っておられては、逆にますます気分がふさぎこみますよ。
屋敷のメインエリアのお庭の桜も、早めに咲き出して、見所満載です。
外に出てご覧になって、気晴らしをされてくだされ」
と、頼母は、采女が自分のせいで思い悩んでいるとは思いもよらず、情け深く話しかけるのでした。
この時の、采女の心中、どうぞ察してやってください。
采女は平静を装って見舞いの人々をもてなしたのですが、言葉の言い回し、表情にいたるまで、どこれもこれも、見る人が見たら、誰かに気があるのがバレバレなのでした。
さて、采女の見舞いに来た人の中に、采女と恋愛関係にあり、深く契っていた志賀内蔵之助《しがくらのすけ》という者がいました。
内蔵之助も、やはり采女の態度を怪しく思い、見舞いの人が全員帰ったあと、采女が臥せる枕の近くに寄ってささやきました。
「隠し事をしても、無駄でございますよ。
誰かはわかりませんが、今、見舞いにいらっしゃった方の中に、あなた様のスキピがいらっしゃいましたよね。
だって、あなた様は会えてとてもうれしそうな表情をしてましたもの。
私という者がいながら、ほかの人にゾッコンになるなんて、アリエナイ!」
内蔵之助は、ちょっとおどけた感じで聞いてみましたが、采女は、
「悪い冗談はやめてください。
そんな愚かなことがあるはずがありません。
このように臥せることは、幼いころからあったのです」
などと誤魔化して、平然とした様子で答えました。
内蔵之助は、それでも疑わしく思い、それからは事あるごとに問いただしてみましたが、そのうち采女は物も言わずに臥せるばかりになりました。
采女が病に臥せっていることは、上野国神流川《こうずけのくにかんながわ》の辺りに住む、采女の家族の耳にも入りました。
采女の家族は、あわてふためいて、急いで暦《こよみ》の博士を呼んで占わせました。
暦の博士は呪文を唱えて占い、
「ご安心くださいませ。
このご病気で命を失うようなことは決してないでしょう。
いかにも、生霊《いきりょう》のようなものが乗り移って、この方の心を悩ませていると、占いの結果に出ています。
ですので、徳の高い僧侶に頼んで、加持祈祷《かじきとう》をさせてくださいませ」
と、言いました。
そこで、采女の家族は、世間で評判の徳の高い僧侶に頼んで、二夜三日の護摩行《ごまぎょう》をしました。
采女の母は、上野国のあらゆる大きな神社に行って、
「息子に何事もありませんように」
など、数々の願掛けをなさいました。
「必ずこの願いは叶えなければならぬので」
と、采女の母は、玉鬘《たまかずら》の君が、長谷寺《はせでら》にまで、はるばると徒歩で参詣なさったように、四十九日もの間、大きな神社に、足がフラフラになりながら、徒歩でお参りになりました。
これは想像以上に大変なことで、人々の哀れを誘うのでした。
一方、内蔵之助も、采女が病に臥すのがとてもツラタンなので、様々の祈りを続けて行いました。
中でも、その頃、池上原《いけがみはら》の目黒不動尊は、願いもよく叶い、ありがたい御利益があるということなので、ここで十四日間もの護摩行をしました。
このように、ありがたい様々な祈りの成果があったのか、采女を悩ませていた恋心も、少しは収まったようでした。
しかしながら、采女はますますダルそうにして、弱々しく臥して過ごすばかりでした。
いつしか遠くの寺の鐘の音も、なんとなく趣《おもむき》深く感じ、
「明日も生きていたら聞こう」
と思うのでした。
そして古い歌を思い出しては歌を詠み、春の雨が一晩中、静かに降り注ぐのを聞いては「~忍び余れる~」なんて歌を詠み、門の辺りで色っぽい声で歌っているのを聞いては歌を詠みました。
どれも、頼母に対する、こらえきれない恋心を嘆く歌です。
今夜もようやく戌《いぬ》の時になりました。
「人に吠《ほ》え掛かる里の犬は、その家に忍んでやってくる人を、不審者だと思って吠え掛かっているのでしょうか。
それとも、犬自身が恋する相手にアピールするために、鳴いているのでしょうか」
と自由に恋愛ができることを、羨《うらや》ましく思いました。
「野良猫は思うがままに恋ができて羨ましい」
と昔の人が言っていたことも、今は理解できます。
軒近くで、「降れ、降れ」と鳴いているカエルを、「ああ、うるさい、うるさい」と思って聞いていると、その方向から、小鼓の音も聞こえてきました。
「ああ、頼母殿が打つ小鼓の音だ」
と思うと、どうしようもないほど気が気でなくなって、
「あの人が打つ小鼓を固定する紐を、なんとか手に入れることができないでしょうか。
私の乱れる恋心を、その紐で束《たば》ねたいのです」
と寂しげに歌を口ずさみ、そこらにある畳紙《たとうがみ》に書き留めました。
またある時は、頼母の名を上《かみ》の句に置いて、折句《おりく》の歌を詠んで書き綴《つづ》り、独り寝の枕の下に突っ込むことを繰り返しました。
そして、それが溜《た》まりに溜まって、今は千束《せんたば》にもなるほどでした。
このような采女が書き留めた嘆きの歌の数々を、内蔵之助は枕の下から何とか取り出し、「やはりそうか」と、ひとり呟《つぶや》きました。
ある夜、屋敷の者が皆、寝静まった頃、この内蔵之助は、采女の部屋を訪れました。
内蔵之助と采女以外は誰もおらず、二人きりで頭を突き合わせて、しばらくは何も言葉も交わしませんでした。
そして、内蔵之助は、恨めしそうな顔つきで、
「それにしても、人の心は変わりやすいと言いますが、ここまであなた様の心が私から離れていたとは、全く知りませんでした。
あなた様と交わしていた契りが、反故《ほご》にされてしまったかと思うと、悔しくてたまりません。
そもそも、先日の私の追求が図星であったにもかかわらず、あなたは「寝言は寝て言え」といった態度でしたが、今はもう、誤魔化しになることはできませんぞ。
この『忍び余れる』とかいう歌は、どんな気持ちで詠んだのでしょうか」
と言いました。
すると、采女は、とてもダルそうに頭を起こして、
「それにしても、人の言葉というものは、色んな意味に解釈できるので、難しいものですな。
『忍び余れる』の歌でもそうですが、私はそんなつもりで詠んだわけではないのに、あなた様のように、恋をするという意味にも、物思いをするという意味にも、人は勝手に解釈してしまいます。
私は、ただ、この世における、情けない自分の身の上の辛《つら》さを、『忍び余れる』という言葉を使って、思いつくままに筆を走らせただけです。
それを、あなた様のように、浮気心を詠んだと思う人もいるのでしょうが、自分の口からではなく、他人の口から出る言葉は、止めることができないわけで、それはもう、どうすることもできません」
と、采女は真顔で言い、また横になろうとしました。
すると、内蔵之助は、その枕を押さえて、
「ああ、それでしたら、この折句は何ですか」
と、折句が書かれた畳紙をそっけなく差し出して置きました。
そして、内蔵之助は、
「ああ、本当に見苦しいご様子ですな。
昔から、男色・女色の二つの道において、どんな身分が高い方々でも、恋するあまりに、はかなく亡くなってしまった例が多くあります。
まして、あなた様はずっと同じ屋敷に住んで、同じ主君にお仕えする同僚に恋をするとは、なんと人の心は執念深いものなのでしょうか。
あなたの患《わずら》いのことで、ご両親にも心配をおかけになるのは、親孝行という理念に反することになります。
そもそも、『孝経《こうきょう》』にも
『髪や皮膚を含むあなたの全ての肉体は、両親から授けられたものであるので、決して傷つけないようにすることが、親孝行の基本である』
とあります。
恋煩《こいわずら》いによって、両親にいただいた大事な体を痛めるなどということは、情けないことで、血迷ったとしか思えません」
と、ついにプッツンしたのか、荒々しく、大声でわめきちらしました。
その時、采女は少し起き直って、
「ああ、かりそめにも私と契りを交わしてくださったあなた様だからこそ、私の乱れた恋心に気づいて見逃さずに、こうして尋ねてくださるのですね。
平兼盛《たいらのかねもり》が「恋心が顔に出てバレバレ」と詠んだ歌の気持ちが、今の私にはドンピシャです。
今はもう罪深く思い、もはや恥を忍んでいる場合ではありません。
このように頼母殿に恋心を抱き始めてから、魂はフワフワと空に浮かび、足は歩くのを忘れました。
頼母殿を思いながら寝ているうちに、いつの間にか、その思いが化け物となって私を惑《まど》わし、このように恋煩《こいわずら》いをさせたのかと思うと、悔しくてしかたありません。
そもそも、あなた様のおっしゃる通り、頼母殿は同じ屋敷に住む同僚なので、隙《すき》をうかがって手紙を渡し、私の思いを伝えて返答を聞くことは、簡単な事のように思えます。
しかし、古歌にあるように、「人目が多いから、すぐそばにいるのに、思いを伝えるチャンスがない」 ということがあるのですよ。
その上、目付《めつけ》が目をギラギラと光らせています。
目付は、頼母殿へ思いを寄せる者を見つけ出して上司に報告し、自分の評価を上げることだけを考えています。
頼母殿へ思いを伝えようと、どんなにコッソリ行動しても、目付にかかれば、どうやっても隠しようがないのです。
もし、私が頼母殿に思いを伝えたら、不幸を招くばかりで、頼母殿にも迷惑をかけるので、私の命も消えんばかりの思いです。
戦乱の世に、主君のために戦って亡くなり、あの世で阿修羅《あしゅら》の家来となることは、勇ましく武道に励む武士にとっては本望です。
今の平和な世の中であっても、主君のために命を懸けるべきで、このような色恋沙汰で命を落とすようなことは決してあってはなりません。
この家の掟《おきて》に背くことになり、主君にも逆らうことになります。
私自身の勝手な恋心によって、何の罪もない頼母殿を危険な目に遭わせるわけにはいかないのです。
私は明日とも知れぬ命なので、八百万の神に誓います。
決して、私は命が惜しいわけではございません。
たとえ私の頼母殿への恋心がバレて、車裂きの刑で体が引き裂かれ、狼のエサにされたとしても、心の中はスガスガしい気持ちでいっぱいでしょう。
ただ、一筋に思う頼母殿に、罪が及びはしないかと、それだけが心配で思い悩んでいるのです。
それなのに、あなた様の追求は、あまりにも情け容赦《ようしゃ》が無いではございませんか」
と、采女は言葉巧みに、スラスラとよどみなく、思いのままに語りました。
内蔵之助は、とてもシラ~ッとした顔つきで聞き、しばらくしてから、
「それにしても、あなた様のスバラシイ御心中には驚くばかりで、愚かな私などは足元にも及びませんが、あなた様がこのまま虚《むな》しくお亡くなりになったとしても、『悪事千里を走る』と、世間でよく言われることわざがありまして、あなた様の浮気心は必ず人に知れ渡ることになるでしょう。
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そうなったなら、若い人たちは、
『ああ、哀れですなあ。
采女殿は、頼母殿を思うあまり恋死《こいじに》したのですか。
それはそれは、どうしようもない愚か者ですな。
まあ、惚れられたのに気づいていながら、そっけなく見捨てた頼母殿も、采女殿を殺したも同然で、また愚か者ですが、プゲラ』
と、噂話に花を咲かせて、バカにしてあざ笑うでしょう。
ただでさえ、人の事を誰もが悪く言おうとする世の中なのに、ましてや、あなた様のスキャンダルは格好の餌食となるでしょう。
そういうわけで、あなた様は死んでからも、知らない所で悪い噂を流され、生きている頼母殿は、思いもよらぬ誹謗中傷《ひぼうちゅうしょう》受けて、公衆の面前で恥ずかしい思いをすることになります。
それもこれも、すべて、あなた様が執念深いからです。
まあ、あまり、長ったらしくクドクドと忠告しても仕方がないですよね。
この先どうなるか知ったこっちゃないですが、私の考えをなんとなく申し上げました」
と言い、さっと立って出て行こうとしました。
采女は、
「ああ、少しお待ちください、私はそのような浅はかな者ではございません」
と言いましたが、内蔵之助は聞く耳を持たず、自分の部屋の方に帰っていったのでした。
『男色義理物語』巻の一終わり
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