※下に現代語訳と解説があります。
懐硯. 第1 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※この記事では、国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しております。
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【翻刻】
専九良、露《つゆ》程も是に心を掛けず、たゞ此の三十日の間の對面《たいめん》無き恋《こひ》しさのミ胸《むね》に迫り、幾度《いくたび》此の者を見廻すれども突き戻《もど》し、
「今一度 逢《あ》ふて、思ひを晴れ度《た》き」
と、ばかり言ひしに、左馬之丞、
「扨《さ》てハ道《ミち》立てたる男、我《ワ》が今の容《かたち》を見給はゞ、年比《としごろ》の執心《しうしん》も冷むべし。
されども、それ程に思い沈《しづ》まれるハ、逢《あ》ふべし」
と、密かに屋敷に呼《よ》びて、此の有様を見するに、専九良、涙を流し、
「かくも姿《すがた》の変はる物か。
夫《そ》れ故《ゆへ》、色有る者を我に召し仕へ」
との心ざし、猶々《なを/\》恋勝りて、自《ミづか》らも皃《かほ》に疵《きず》を付け、態《わざ》と無器量《ぶきりやう》に持ち下げ、弥々《いよいよ》深《ふか》き語らひ、
「かゝる衆道《しゆだう》の骨髄《こつずい》、昔より有るまじき心底《しんてい》」
と、皆々《みな/\》感《かん》じぬるも、理《ことハり》ぞかし。
「此の事、過ぎし年の春よりの取結び」
と、扇が谷《やつ》の竹下折右衛門《たけしたおりえもん》と言へる男の具《つぶさ》に語るを聞《き》ゝ捨《す》てにして出ぬ。
【現代語訳】
専九郎は遣わされた美少年にメロメロになって、左馬之丞のことは忘れてしまいましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
こら! 勝手に話を作るんじゃないっ!
本当の現代語訳はこちら!
【現代語訳】
しかし、専九郎はこの美少年に全く心を寄せず、ただ左馬之丞とこの三十日の間会えなかった恋しさだけが胸に押し寄せ、何回この美少年を派遣しても突き戻し、
「もう一度だけでもいいから、左馬之丞殿に逢って、この思いを晴らしたい。」
とばかり言うのでした。
左馬之丞は、
「それにしても、専九郎殿は私に衆道[「若衆道」の略、男色のこと]の誓いを立てている男だが、私の今の姿をご覧になったら、ずっと思い続けた私への恋心も冷めてしまうだろう。
しかし、それほど思い詰めてらっしゃるのならば、会わねばなるまい。」
と、こっそり専九郎を屋敷に呼び、この姿を見せました。
専九郎は涙を流し、
「ここまで姿が変わってしまうものなのか。。。
だから、代わりの美少年を私に召し仕えるよう、寄越したのですな。」
と、左馬之丞の思いやりに感動し、ますます恋心が募りました。
そして、専九郎は、自分で自分の顔に傷をつけ、わざわざブサイクになって、ますます左馬之丞と深く契りを交わしたのでした。
「このような衆道の真骨頂とも言える心意気は、過去にも例を見ないことだ。」
と、誰もが感動したのは、もっともなことです。
「こういうわけで、二人は去年の春から衆道の契りを交わしています。」
と、扇が谷《やつ》[鎌倉の地名]の竹下折右衛門《たけしたおりえもん》が詳しく語ったのを、右から左に聞き流して、私[伴山]はこの地を発《た》ったのでした。
【解説】
導入は伴山が鎌倉の妙久寺に訪れた話だったはずなのに、いつのまにか自然と、去年の春の出来事を、竹下折右衛門が語った内容にすりかわっているのは、まさに西鶴マジックと言えるでしょう。
前回の明智光秀の話とほぼ同じプロットですが、男色話が女色話にすんなり転用できるほど、男色も女色も同等の恋愛として扱われていたことが分かります。
では、男色話と女色話には違いがあるのか?
それは、もちろんあります。
詳しく語るとキリがないので、簡単に言いますと、男色話は血なまぐさいのです。
女色話だと心中しても水に身を投げて、血を見る事はありません。
男色話だと、今回は顔に傷をつけた程度で済みましたが、斬り合ったり、刺し違えたり、切腹したり、血なまぐさい描写が多いです。
男色は衆道とも呼ばれ、武士道の一部と考えられていたので、そういう血なまぐさい展開にならざるをえなかったのでしょう。
なお、この章のタイトル「人の花散る疱瘡の山」は、「花が山で散る」といういうように縁語っぽくなっています。
「人の花」というのは「左馬之丞の美しさ」、「疱瘡の山」というのは「山」は病気がピークを過ぎて回復することをさします。
つまり「左馬之丞の美しさは、疱瘡の回復と共に失われてしまった」という意味になります。
次回は、挿絵の解説と久々にくずし字クイズでもやって、このお話の紹介は終わりたいと思います。
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