「定番の昔話が江戸時代にはどう書かれていたか?」シリーズヾ(๑╹◡╹)ノ"
今回は「こぶとりじいさん」です。
「こぶとりじいさん」のお話は元々は『宇治拾遺物語』[鎌倉時代成立]などに収録されていた作品です。
『宇治拾遺物語』自体は江戸時代にも出版されて広く読まれてはいたみたいなんですが、「こぶとりじいさん」のお話はそれほど人気があったわけではないようで、『醒睡笑《せいすいしょう》』の中にアレンジされた話があるぐらいです。(狂言に『宝瘤《たからこぶ》』という作品があるみたいなのですが、今回は未調査です)
せっかくなんで、『醒睡笑』の「こぶとり」話でも読んでみましょう。
『醒睡笑』[安楽庵策伝作、寛永五[一六二八]年成立か、笑話集]巻一
近代日本文学大系. 第22巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
【原文】
〇鬼に瘤《こぶ》を取られたと言ふ事なんぞ。
目の上に大いなる瘤を持ちたる禅門ありき。修行に出でしが、或る山中に行き暮れて宿無し。古き辻堂に泊まれり。夜、既に三更《さんかう》に及ぶ。人音、数多《あまた》して、彼の堂に来たり、酒宴を為す。禅門、恐ろしく思ひながら、為方《せんかた》無ければ、心浮きたる顔し、円座を尻に付け、立ちて踊れり。明け方に成り、天狗共帰らんとする時に言う。
「禅門、浮蔵主《うきぞうす》にて、良き伽《とぎ》なり。今度も必ず来たれ」と、
「約束ばかりは偽りあらん。ただ質に如《し》くは非《あら》じ」
とて、目の上の瘤を取りてぞ行きける。禅門、宝を儲けたる心地し、故郷に帰る。見る人感じ、親類歓喜する事限り無し。
【現代語訳】
〇鬼にコブを取られた話などしましょう。
目の上に大きなコブ[「目の上のタンコブ」をふまえたか?]がある禅門[俗人のまま剃髪して仏門に入り、僧の姿になった人]がいました。
修行に出たのですが、ある山中で日が暮れてしまい、宿もないので古い辻堂に泊まりました。
夜中の十二時ごろに、人の来る音がたくさんし、天狗がこの堂にやって来て、酒宴を始めました。
禅門は恐ろしく思ったのですが、どうすることもできないので、心がウキウキした顔をして、円形の座布団を尻に付け、立って踊りました。
明け方になり、天狗たちが帰ろうとする時に、
「禅門はひょうきんな坊主で、よい退屈しのぎになった。今度も必ず来なされ。
約束だけでは信用できないから、禅門の何か大事なものを預かっておくことにしよう」
と言って、目の上のコブを取って行きました。
禅門は、悩みの種だったコブが無くなり、宝を得たような気持になって、故郷に帰りました。
この姿を見た人たちは感動し、親類もとてもとても喜んだのでした。
おじいさんが禅門、瘤の場所がホッペから目の上に変わっているぐらいで、お話の内容自体は、今の「こぶとりじいさん」のお話とあまり変わらないですね。
最初は「鬼にコブを取られた話」と言っているのに、作中では「天狗」になっているのは、天狗と鬼が同じようなものと考えられていたんでしょうね。
ただ、コブを取られて特にオチもないハッピーエンドで終わっていて、もう一人のコブがある人物がでてきません。
このお話が収録されているのは、『醒睡笑』の巻一なのですが、実は巻六にこの続きが書かれているのです。
『醒睡笑』巻六
【原文】
〇或る所に、禅門、目の上に大なる瘤を持てり。悲しきながら為方《せんかた》無く過ごしけるに、人の語る様《やう》、
「其処の里に住むなる老人、山路を通ふとて、道にて鬼に行き合ひ、年頃、煩《うる》さかりし目の上の瘤を取られ、一門眷属《いちもんけんぞく》まで喜び限り無し」
と言ふを聞くに、強《あなが》ちに是《これ》を羨《うらや》み、遥々《はる/゛\》と其の人の許《もと》を尋ね会ひ、有りし趣《おもむき》を尋ね極め、瘤を取られん望みに、彼の辻堂に行き、待ち居けり。案の如く、何とも知れぬ者共、夜更け多く集まり、どしめき罵《ののし》り、酒宴を始むる時、禅門、円座を腰に付け踊りければ、
「また来しなり。約束を違《たが》へず来たりたるが嬉しきに、以前の瘤を取らせよ」
と言ふまゝ、ひしと打ち付けたれば、思ひの外《ほか》なる災ひを求め、瘤二つの主に成りて帰りぬ。
【現代語訳】
〇ある所に、目の上に大きなコブがある禅門がいました。
悲しいけれど、どうすることも出来ずに過ごしていましたが、ある人が、
「そこの村に住む老人は、山道を通っている時に鬼に出会い、ずっとうっとおしかった目の上のコブを取られて、親類縁者までもとても喜んだということだ」
と言うのを聞きました。禅門はとてもこのことをうらやましく思い、はるばるその人の所を尋ねて会い、どうやってコブを取られたか、しっかりと聞きました。
そして、コブを取られることを願い、例の辻堂に行って待ちました。
思った通りに、何とも得体のしれない者たちが、夜更けに多く集まってきました。
どしどしと音を立てて騒ぎ、酒宴が始まる時、禅門は円形の座布団を腰に付けて踊りました。すると、鬼[天狗]は、
「また来てくれたのか。約束を破らずに来てくれたのが嬉しいから、前に預かったコブを返そう」
と言いながら、ピシっと禅門の目の上にコブを打ち付けました。
禅門は想定外の災難にあい、二つのコブの持ち主となって帰ったのでした。
話の大筋は今の「こぶとりじいさん」と変わりませんが、巻一でコブを取られた禅門が年を経て老人になっており、その老人に別のコブがある禅門が話を聞いて、コブを取られに行くという話にアレンジされています。
年月が経ったことを表すために、続きを巻一から間隔をあけて巻六に収録したんですかね?
最初にコブを取られた禅門はもう老人になっているのに、ついこないだのことように言っている鬼[天狗]って長生きなんですねえヾ(๑╹◡╹)ノ"
コブが二つになった禅門は気の毒ですが、鬼[天狗]は好意でコブを返していて、全く悪気はないところが、なんとも。。。
『醒睡笑』は笑話集なんですけど、このお話は悲劇と言ってもいいですね。。。
そのためか、一般に普及した『醒睡笑』の版本にはこのお話は収録されていません。
今回は画像がないので、その代わりと言っては何ですが、江戸時代に出版された『宇治拾遺物語』の挿絵をどうぞヾ(๑╹◡╹)ノ"
ひょうたんみたいにビローンとコブが垂れ下がってますねヾ(๑╹◡╹)ノ"
※『宇治拾遺物語』においては今とほぼ同じお話で、お爺さんのホッペにコブがあります。
万治二(一六五九)年刊 国文学研究資料館所蔵 (CC BY-SA)
新日本古典籍総合データベース
はいはい、小太り(こぶとり)ね、ベタすぎるわ!
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