今回から、ももはな (id:however-down) さんのリクエストにお応えして、『稲生物怪録《いのうもののけろく》[「いのうぶっかいろく」とも]』を読んで行きたいと思います。
とは言っても、『稲生物怪録』は出版されたものではなく、書き写されて伝わったもので、色々なパターンの写本が存在します。
『稲生物怪録』というのも、あくまでもこの系統の作品の統一書名で、タイトルも写本によってマチマチです。
今回紹介するのは、絵本系と呼ばれる系統の一冊で、タイトルは『稲生平太郎妖怪記』となっています。
今回紹介する写本は、絵も字も下手であまり出来が良くないのですが、ブログに載せても大丈夫なのがこれしかなかったのでヾ(๑╹◡╹)ノ"
なお、【原文】では、誤字脱字はできる限り修正しています。
挿絵の位置も本文と合っていないので、合わせました。
(左下に蓑笠で比熊山を登る平太郎の姿)
新日本古典籍総合データベース
※この記事では、国文学研究資料館所蔵品の画像データを適時加工して利用しています。 (CC BY-SA 4.0)
※画像は拡大できます。
【原文】
西州《せいしう》の人に稲生平太郎《いのうへいたろう》と言へる者有り。
其《そ》の男氣なる事、人に優れける。
然《しか》るに、寛延《かんえん》年中、其の年十六歳にして、七月上旬の間、昼夜妖怪に出逢ひしが、勇氣 弥増《いやま》しにして、少しも恐るゝ氣色《けしき》無く、終《つひ》に化け物 退《しりぞ》きしは、誠に類《たぐひ》無き有様《ありさま》也。
彼《か》の平太郎、化け物に逢ひし起こりは、勇氣成る餘《あま》りにや、近き処《ところ》に権八《ごんぱち》と言へる相撲《すまい》有りしに、彼が宅に夜毎《よごと》〻行き、其の術《わざ》を習ひしが、若き者寄り合ひていろ/\物語せしに、ふと勇氣の勝る劣《おと》るなど争ひ、平太郎権八互ひに強く争ひ、「然《さ》らバ勇氣の試《ため》しせん」と申せしより、此《こ》の事始まりけるとなり。
勇氣の試しせんとなし、五月三日の夜なりける、雨風 頻《しき》りになるを「良き時」と申し合はセて、平太郎ハ蓑《ミの》笠にて此の国に名高き比熊《ひぐま》の山に登りける。
元より道の案内も知らず、しかも暗き夜なれば、漸《やうや》うとよじ登り、後は蓑笠も打ち捨てゝ終に山の頂《いただき》なる千畳敷《せんてふじき》と言へるに到《いた》り、彼の申し交はせし印《しるし》の札を結び置きて、明ヶ近き頃に事無く帰りけるとなり。
かくて権八も印の札を結び置きしには興《きょう》を醒《さ》ましけるが、「猶《なほ》、平太郎が氣勢《きせい》を試しばや」と、「彼の比熊の山に到り、百物語リせん」と又も誘《いざな》ひつゝ、五月廿六日と約し、暮の頃、灯火《ともしび》の設《まう》けなどして、両人の者は比熊なる千畳敷に上りしが、彼の古き塚の許に到り、夜もすがら怪《あや》しの物語をなし、百の数を積もりけるとぞ。
【現代語訳】
西の方の国に稲生平太郎《いのうへいたろう》という者がいました。
平太郎の勇気(何事も恐れない勇ましい気持ち)は、人より優れていました。
寛延《かんえん》[1748~1751年]年間、平太郎十六歳の年の七月上旬から三十日の間、平太郎は昼も夜も妖怪と出会いました。
しかし、平太郎の勇気は増すばかりで、少しも妖怪を恐れる様子も無く、とうとう化け物が去って行ったのは、実にこれまでなかったほどすごい事です。
その平太郎が化け物に出会うことになった原因は、勇気が有り余っていたからでしょうか。
平太郎は近所に住む権八《ごんぱち》という相撲取りの家に毎晩通い、相撲の技を習っていました。
ある時、若い者たちが集まって、いろいろと話をしている内に、「どっちの方が勇気があるか、ないか」の言い争いになりました。
特に平太郎と権八はお互いに激しく言い争い、「それならば、どっちが勇気があるか度胸試しをしよう」ということになったのが、そもそもこの出来事の始まりでした。
度胸試しをすることになり、五月三日[北見花芽の誕生日]の夜、雨風が強いのを「絶好の機会」と双方合意し、平太郎はこの国で有名な比熊山《ひぐまやま》[広島県三次市]に蓑《みの》と笠という軽装で登りました。
元々道順も知らず、しかも暗い夜なので、なんとかしてよじ登り、そのうち蓑も笠も邪魔なのでポイして、とうとう山の頂上の千畳敷《せんじょうじき》[比熊山城本丸の跡]という場所に到達しました。
そして、登った証拠の札を、約束した場所に結んで、明け方近くに無事に帰ってきました。
こういうわけで、あっさりと平太郎が札を結んだので、権八もどん引きしたのですが、「もっと平太郎がどれだけ勇気があるか試したい」と思い、「その比熊山にもう一度行って、百物語をしよう」と誘いました。
決行日を五月二十六日と約束し、暮の頃、灯火の用意などして、平太郎と権八の二人は比熊山の千畳敷まで登りました。
そして、タタリがあるという噂の古い塚の所に行き、一晩中怪談話をして、その数は百話に達したのでした。
【解説】
勇気ある十六歳の少年、稲生平太郎の家に三十日間、妖怪が現れたというお話です。
主人公の稲生平太郎は、実在の人物で、現在も子孫の方がいらっしゃいます。
なので、このお話は誰が何と言おうと実話なのです(笑)
今回は発端《ほったん》の部分で、平太郎と隣人の力士権八が比熊山で百物語をします。
これまで、何回か百物語を取り上げましたが、百物語をすると化け物が現れると言われていましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
kihiminhamame.hatenablog.com
僕も百物語の後に出て行って「何かようかい?」って言おうかなヾ(๑╹◡╹)ノ"
【三つ目からの挑戦状~くずし字クイズ(正解は次回)】
◆インフォメーション
※北見花芽の中の人も少しだけ付録CDで担当しています。
※付録CDに『武太夫物語絵巻』(『稲生物怪録』)が収録されています。
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